「情報Ⅱ」設置の経緯
理系に進む生徒を増やすための授業を設置
インタビュアー:まず、弊社の情報Ⅱの授業支援を受けることになった経緯を教えてください。
三原先生:文部科学省がDXハイスクール事業を始めたことを知り、令和8年度入学予定者の教育課程表に情報Ⅱを取り入れたいと思い、スクールエージェントの田中さんに相談したのがきっかけです。まずは全体的かつ段階的に情報Ⅱを学べる教育課程表の作成を目標に、2年生に対して試行授業を行っています。本校にはそもそも理系の生徒が少ないのですが、情報Ⅱを学べるカリキュラムを用意して、理系の層を拡大していきたいという狙いもありました。
インタビュアー:ありがとうございます。弊社の授業支援を受けるまで、情報Ⅱの授業はなかったのでしょうか?
三原先生:ありませんでした。そもそも情報Ⅰの授業でさえ、数年前からカリキュラム作りを始めたものなので。新しい風を入れたいとは思いつつも、不可能だと思っていたときに、田中さんと本校のかつての理事長がたまたま出会ったのをきっかけに、カリキュラムへのテコ入れが始まりました。それをきっかけに Google の認定事例校に指定され、その勢いのまま情報Ⅱのカリキュラムも導入する流れになったのです。
「情報Ⅱ」の設置前に感じていた課題と不安
生徒がついてこられるかどうかが疑問だった
インタビュアー:情報Ⅱの授業支援を受けるにあたって、課題や不安はありましたか?
三原先生:情報Ⅱを取り入れたところで果たして生徒がついてこられるのか、大きな不安がありました。
インタビュアー:実際に支援を受けてみて、生徒様の反応はいかがでしたか?
三原先生:与えられたものを素直にやる生徒が多いので、作業しながら「なんだろう?」と思いつつも、特に何も感じてなかったように思います。本校は全国的に見て平均的な偏差値の生徒が多いのですが、支援を受けている授業は、2年生のなかでもトップクラスの理系の子たちだけを集めているのです。授業の内容としてはかなり高度ですし、生徒によっては温度差もありますが、全体的に成長しているのではないでしょうか。
田中様:もうかなり成長していますね。情報Ⅱの授業では数学をたくさん勉強していないと解けない問題も出てくるのですが、一度ゴールを体感し、難しい内容でもなんとなく作業ができるという体験をさせたいと思っています。その成功体験をしてから、大学に行って欲しいです。
生徒が興味を持てるテーマを積極的に採用
インタビュアー:かなり難しいことを学んでいる印象ですが、生徒様にはどのように興味を持たせているのでしょうか?
田中様:興味を持たせるには、五感であれば食でも音楽でも絵でも、何でも良いと考えていますが、この学校は女子生徒が強いので、そこを掌握しなければ授業が成り立たないと思いました。そのため、アロマや美容など女子生徒が特に興味を持ちそうな話題に寄せて話をするようにしています。その話をきっかけに興味を持って、自主的かつ能動的に授業を受けるようになった生徒もいるのです。
三原先生:わからない問題を放棄してしまう層ではないので、ある程度難しいこの授業でも寝ることなく、話を聞いていられるのだと思います。完全に放棄してしまう層の生徒だったら、また難しかったのかもしれません。
コンクール出場で感じられた生徒たちの成長
千葉大学や神戸大学が開催するコンクールに参加
インタビュアー:情報Ⅱの授業支援を受けたことで起きた変化があれば教えてください。
三原先生:授業を始めたタイミングで、千葉大学との連携強化のきっかけになりそうな授業のコラボ依頼がありました。それと同時に、高大連携を目的として、生徒が千葉大学の数理科学コンクールにエントリーをしたのです。また、神戸大学のデータサイエンスコンテストも田中さんにご提案いただいてエントリーしましたね。授業の中では、その大学の研究に関連するテーマを設定して、研究室につなげられるように授業を進めていただいています。そういったゼミのような活動を、この関東第一高校の授業の中でできるようになったことは、大きな一歩です。今までの探究の授業では、大学の研究を意識した授業が一切なかったと言っても過言ではないので。
インタビュアー:それぞれの大学のコンテストについて、もう少し詳しいお話を伺えますでしょうか?
三原先生:千葉大学の数理科学コンクールは、今回人工知能部門に参加して嗅覚の問題に向き合ったのですが、残念ながらどの生徒も表彰されなかったのです。
田中様:コンクールに出場する生徒には、今回の情報Ⅱ相当の授業で学ぶ内容を先んじて勉強させたのですが、本物の機械学習を勉強していないと解けない問題で、付け焼刃で身につくわけもなく、玉砕しました。成果物は見せてもらいましたが、「ナイストライ」「よく頑張った」という感じです。
インタビュアー:それは高校生が参加対象のコンクールでしょうか?
三原先生:はい。千葉県の学校が多く参加しているものですが、東京などの学校も参加していて、優秀な学校は表彰されていました。そのような学校が出場するコンテストに参加できたのは、学校として大きな成長だと思います。通常の授業内容が直接リンクするコンテストではなく、自分たちで学ばなければならないところもあったのですが、良い経験になりました。
インタビュアー:神戸大学のコンテストのほうはいかがでしたか?
田中様:神戸大学のコンテストでは、非常に良いプレゼンを完成させたのです。バスケットボールのBリーグの営業データを大学が持っていて、その営業データをもとにチームの広報戦略をプレゼンするというテーマだったのですが、本当によく頑張りました。3人1組のチームがプログラミングで分析して、授業で教えたことをきちんと活かした成果物を提出したのですが、上には上がいるもので、結局落ちてしまいました。しかし、内容は非常に良いもので、個人的によくやったと思っています。
インタビュアー:コンテストに出場する生徒様は、どのように決められたのでしょうか?
三原先生:希望者をエントリーしました。出場しなかった生徒は別途研究テーマを考えて学内発表の準備をしてもらっています。グループ研究でもOKにしていますが、全員1人1個ずつ研究テーマを持たせるようにはしています。
自分の研究テーマを高校時代から持てるのは大きな財産
インタビュアー:今まではそういったコンテストへの参加や外部への発表といった機会はなかったのでしょうか?
三原先生:外部への発表の機会はありませんでした。まず、本校は理系生徒の割合が少ないため、みんなでコンクールに参加しようという話題になることがほとんどないのです。私は数学科なので、数学甲子園のようなイベントに何度か生徒を連れていったことはあるのですが、当たり前のように予選で敗退していました。どちらかというと、本校は部活動でそれぞれが活躍する動きが強く、授業から外部に出ることは本当にないと思っていたので、コンクールへの出場は本当に大きな一歩だと思いますね。
インタビュアー:そういった成長を大事に、今後も進めたいというお考えでしょうか?
三原先生:そうですね。外に出て授業とリンクさせながら学ぶ方法が、情報Ⅱだけではなく、より様々な教科に広がっていけばいいですよね。今は、授業準備やクラスの生徒・保護者対応であっという間に1日が終わってしまう教員が多いと思いますが、本来の自分たちがやるべき研究活動の時間を確保できるよう、我々管理職の中で業務整理を推し進めています。
インタビュアー:それは生徒様の将来的な進路を考えられてのことでしょうか?
三原先生:そうですね。高校3年間で研究への意識を高めて大学に行くだけでもかなり違いますし、大学選びをするときの選択の幅もかなり広がると思うのです。自分がかじってきた研究テーマを学べるという視点からも、大学を選べるようになりますし。そういう生徒が本校の中から出てくると本当にいいなと思います。授業を通じて自分の研究テーマを持てたり、将来どうなりたいかを考えられるようになったりするのは非常に大切だと感じています。
インタビュアー:生徒様が自分自身でテーマを見つけることを重視されているのでしょうか?
三原先生:さまざまなきっかけは作らなければならないと思っています。生徒一人ひとりの中からふわっとテーマが出てくるようになるためには、多様なものを自分で調べられる活動ができるようにならないといけない。その段階まで行けたら非常に楽しいのですが、本校は高校単独校ですので、なかなかその力を養う機会がない。だからこそ、短い時間で探究心を育む技術やテーマへのアクセス方法を教えられるような、情報分野に長けた先生を増やす必要があると思います。
クラスによってレベルの異なる授業を実施
インタビュアー:情報Ⅱの授業は必修にされるのでしょうか?
三原先生:試行授業の段階では、総合的な探究の時間の中で、学習内容に情報Ⅱの分野を盛り込んだ授業にしていますが、この授業実践を経て、令和8年度の入学生が高校2年生になったときに、情報Ⅱというカリキュラムをきちんと教育課程表の中で提示できるようにしていきたいと考えています。
田中様:研究のところが探究で、情報データサイエンスのところは情報Ⅱという住み分けがあるのです。
インタビュアー:探究授業では別の教材も使用されていると伺いましたが、授業支援との違いはありますでしょうか?
三原先生:1年生は、実在する企業でのインターンシップを教室で体験しながら、働くことの意義や企業活動への理解を深めるとともに、グループワークを通じて、新しい未来を自分たちの手で作り出していくことに取り組んでいます。また、2年次の修学旅行に向けて、地域探究の準備を開始しています。
2年生の探究の授業では、10月の修学旅行の自主研修に向けて、自分たちでグループを作ってテーマを決めてもらっています。田中さんの授業を受けている2クラスだけは、そこからもう数段階レベルを上げて、各自で探究をしてもらうようにしているのです。基本的な探究活動は別の教材を、高度なものは授業支援、というように、クラスによって数段階違う探究の授業が行われていますね。
授業支援サービスがなくてはならない存在に
どの教員もできないレベルの授業を実現してくれた
インタビュアー:今後、御校としては外部のさまざまな大学との取り組みを拡大していく予定でしょうか?
三原先生:そうですね。DXハイスクールに採択されたことをきっかけに、高校在学中から大学との接点を持てる機会が増えましたし、今は良いタイミングではないでしょうか。学校内で完結せずに、簡単にいろいろなステップを踏んでつながりを広げていける点は、情報Ⅱの大きなメリットだと捉えています。
田中様:偏差値では70に届かないような理系志望の中学生も、情報Ⅱを設置している学校にリーチできるのはいいことだと思いますね。
インタビュアー:全体的なサービスの満足度はどの程度だと言えますか?
三原先生:題材の選定も含めて自分たちでは絶対にできないことなので、満足度はかなり高いです。言い訳になるかもしれませんが、自分の専門の授業を片手間に、このレベルの探究の授業は、今いる教員では誰もできないのです。そういった意味でも、現在の本校には絶対に必要な存在だと感じてかなり投資しています。本校は専門科目以外の授業での強い魅力というのがまだないのですが、教育理念には「生涯学び続ける生徒の育成」とありますので、教員自身も生涯学び続けるという精神でより魅力的な授業を実践していきたいですね。
まずは「やってみること」が何よりも大切
インタビュアー:情報Ⅱの授業など、先進的な取り組みを進めるうえでの考え方についてお聞かせいただけますでしょうか。
三原先生:とりあえず、やってみることが大切です。周りから反対されたとしても、やれば絶対に将来注目されますし、そこで注目されたら周りの人からもまた信じてもらえるものです。本校が生成AIを導入した時もそうだったので、信じていれば大丈夫だと私は思っています。
インタビュアー:他の先生方にも認知していただくコツがありましたら教えてください。
三原先生:この情報Ⅱの授業支援については、共有できていないところが多かったのですが、ChatGPTなどの前段階から、職員会議で田中さんに実演していただいていました。そこから他の先生方にも体験していただき、ChatGPTの存在を知ってもらっていました。その後、日本中で騒がれ始めたときに、以前体験したことを思い出して、こっそり使い始めた先生もいたのです。ですので、少しずつ体験させてみて、なんとなくわかった感を醸成していくのがすごく大切かと思います。
インタビュアー:一部の方からでも取り組みを進めることが重要になってくるのですね。
リーダーシップのある先生がいたからできた
田中様:私は、この学校においては三原先生のリーダーシップがあったからこそ進められたと信じています。ボトムアップは学校では絶対に起きないものですので。
三原先生:確かに今回のDXハイスクールの申請は、誰かが言わないと絶対に動かないものだったと思います。もし、自分が言わなかったら、誰一人言ってなかったような気がします。非常に忙しい時期であれば、何もできていない可能性が高く、そんなに忙しくないタイミングで声をかけていただけたのはラッキーでした。
田中様:情報Ⅱの科目には、データサイエンスの他にもプログラミングやシステム構築など、4つの分野があるのですが、そのなかでもデータサイエンスは取り組みづらいのです。事実、データサイエンスを扱っている高校は珍しく、おそらく関東第一高等学校さんは貴重な存在ではないかと思います。
インタビュアー:なぜデータサイエンスを選ばれたのでしょうか?
田中様:例えば3Dプリンターだとみんなモノづくりになってしまって、研究にはつながりません。その点、データサイエンスであれば探究の授業に絡められますし、どの分野でも進みやすいのではないかと考えたのです。
生徒の成長機会を逃さず、外部支援の活用を
追いかけてきてくれる学校と切磋琢磨したい
インタビュアー:次年度もDXハイスクールに応募されると思いますが、次年度も含めた今後の情報Ⅱの授業や御校全体の方針についてお聞かせいただけますでしょうか?
三原先生:研究に興味を持てる生徒をより多く輩出するために、来年はもう一度DXハイスクールに申請して継続する予定です。情報Ⅱをすべての理系クラスに取り入れて、全体の3割から4割くらいの生徒が研究意欲を持って卒業できるようになるまで継続しなければ、申請する意味がないと思っています。そのためには良質な授業が欠かせず、充実した内容にするためには外部の人材からの支援がとても大事だと感じました。仕事として外部に依頼することで、クオリティが担保されますし。来年以降も、授業支援を外部に委託することで大きな成果につながっていくのではないかと考えています。
インタビュアー:これから情報Ⅱの導入を検討されている学校様に対してメッセージはありますか?
三原先生:本校がまず頑張りますので、ぜひあとから追いかけてきていただきたいです。
田中様:ぜひ他の先生方にも学んで、マネしていただきたいです。そうしたらどんどん活性化して、競い合う中でいいものが生まれてくると思いますので。高偏差値の高校だけが入賞していたコンテストにも、一般層から出てきた生徒たちが食い込んでいけたら、すごくかっこいいと思いますね。
インタビュアー:まずは走り出すことが大切ということでしょうか。
三原先生:そうですね。本校も決して新しい取り組みを先行しているわけではなく、スタートできるタイミングで確実にスタートしているだけなんです。このDXハイスクールも、スタートしたのは案内が来たタイミングですし。ですので、他の学校様もチャンスを逃すことなく、スタートできるようになれば良いのではと考えています。
理系層の拡大を目指すだけでなく、生徒の進路選択も見据えて情報Ⅱの授業に取り組んでいる学校法人守屋育英学園 関東第一高等学校様。導入のきっかけや先生方からの評価だけではなく、生徒様の顕著な成長についても伺うことができ、私たちにとっても大変励みになりました。このたびは貴重なご意見や情報を共有していただき、誠にありがとうございました。
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