DXハイスクール採択校となったことをきっかけに、生成AIを導入された学校法人野田学園様。
前回の記事では主に教職員様向けに行われた研修について、お話を伺いました。今回は、生徒様向けに行われた研修について、研修を実施された経緯、研修に対する生徒様の反応、生成AI活用に対する今後の展望などをお話いただきました。
目次
学校詳細

本校は1877(明治10)年の創立以来、時代の変化に柔軟に対応しながら発展を遂げてきました。三年後には創立150周年を迎えますが、明治初頭、いち早く女子教育の重要性に気づき学校設立を果たした創立者の先見性やチャレンジ精神は、現在も野田学園のDNAとして受け継がれております。
創立後、幾多の変遷を経て、男女共学の野田学園中学校、高等学校となりました。2007(平成19)年からは、中高一貫教育を開始し、それを契機に、生徒全員にタブレット端末を持たせ、全教員がICT教育に取り組みました。そして、ICTを活用したアクティブラーニングの研究・実践にいち早く取り組み、その成果もあって、現在では、東京大学や難関私立大学へも進学する県内有数の私立進学校となりました。
部活動でも、卓球部の活躍はめざましく、パリオリンピックに出場した戸上隼輔選手は本校の卒業生です。また、女子テニス部は、2024年のインターハイでダブルス優勝、団体2位と近年急成長しております。
2024年度からは、文部科学省の高等学校DX加速化推進事業に採択され、ICTを活用した探究的な学びをさらに深化させ、DXスペースを設置してデジタルものづくりなど生徒の興味関心を高める授業・課外活動を実践しております。また、それらを効果的に実施するために、企業や大学と連携して、生徒・教員への生成AIの研修を実施しております。
学校名 | 野田学園中学・高等学校(6年制一貫教育) 野田学園高等学校(3年制普通科) |
住所 | 〒753-0094 山口県山口市野田56 |
TEL | 083-922-5000 |
FAX | 083-922-5005 |
HP | https://www.nodagakuen.ed.jp/ |
お話をお聞きした先生方

岡藤先生、吉武様の二人を中心に校内全体への生成AI導入が進められ、生徒への導入・活用については津森先生を中心に進められた。津森先生・岡藤先生は教員の立場から校内への推進を進められ、吉武様は事務職員の立場から導入を担当された。
生成AI導入に至るまで
生徒のICTスキル習得を促すために
インタビュアー:前回、生成AIの教職員様向け研修に関するお話を中心に伺いました。そのなかで、将来社会に出ていく生徒様たちにICTスキルを習得させることの必要性についてもお話いただきました。改めて、今回教職員様だけでなく、生徒様にも生成AIを使わせようと考えた経緯について詳しくお聞かせください。
津森先生:教職員と比べると、生徒たちは世代的に新しいものに触れる機会が多いので、生成AIの存在自体は認識しています。すでに実際に使ってみたことがあるという生徒もいるかもしれません。ただ、生成AIの黎明期といわれる今のフェーズでは、使用状況にはまだまだ個人差があります。仮に使ったことがあったとしても、理解度としては基本操作程度です。ChatGPT や Gemini と言った生成AIが続々登場し進化する中、それらについてよく知らずに社会に出ていくのは、生徒にとって不利益になる可能性があります。そのため、しっかり時間を割いて生徒たちが生成AIに触れる機会を作ろうと考えました。また、一方的に指導するのではなく、生徒同士でも教え合うことで、普段の授業とはまた違った新たなコミュニケーションが生まれるのではないかという期待もありました。
インタビュアー:生徒様に対しても外部の研修を実施された理由についてお伺いできますでしょうか?
津森先生:純粋に、我々教職員の指導では限界があると思ったからです。生成AIに精通したプロにお任せしたほうが、生徒の理解度もより深まるのではないかと考えました。
生徒への研修実施までの流れ
インタビュアー:生徒様向けの生成AI研修を実施するまでの流れについて教えてください。
岡藤先生:まず、令和6年度にDXハイスクール採択校に認定され、そこからICT教育を推し進める上での協力業者を探していたところ、ミカサ商事さんに生成AI導入・活用サポートをご紹介いただき、生成AI導入に向けた動きが本格的にスタートしました。2024年の夏休み期間中である7月、まず教員が使ってみようというところから始め、9月に教職員研修を行っていただきました。当校では普段からさまざまな研修を行っていますが、これまでのどの研修よりも先生方が熱心に話を聞いていたのが印象的でした。研修後、大学の推薦書のブラッシュアップや生徒が書いた志望理由書の添削の際、ChatGPT や Gemini を活用するなど、文章業務でかなり効果を出しているようです。その他、教科の指導案や小テスト問題の作成においても生成AIの積極的な活用が進んでいます。ただ、あくまで学校ですので、教員だけが生成AIを使うのはこれからの時代に合わないと考え、生徒にも身につけさせる必要があると判断しました。とはいえ全体で研修を実施するのは難しいので、特定のクラス(2年6組の特進Sコース35名)で、12月にまず“入り”として「生成AIとはこういうものだ」という研修を行いました。大人数だとなかなか目が届きにくくなるので、普段の授業と近しい雰囲気で実施しました。
インタビュアー:御校の方針としては、まずは一部のクラスから始めて、ゆくゆくは全体に広げていくことを考えているのでしょうか?
岡藤先生:はい。2025年度から生成AIを本格的に活用していく予定のため、2025年4月に保護者の同意を得て、当校独自の「野田学園生成AI活用ガイドライン」も作成しました。このガイドラインは、生成AI研修で得た知見を共有しつつ、主に ChatGPT との対話を通して下書きを作成し、私が手直しして完成させました。現時点ではまだ指導方法まで細かく決める段階ではありませんが、実際の運用を目指して少しずつ準備を進めているところです。
インタビュアー:お話の本筋とは少しずれるのですが、御校は ChatGPT メインで使われていると伺いました。ChatGPT を選ぶ理由は何でしょうか?
岡藤先生:最初の研修が ChatGPT だったのが大きいですが、Gemini やスタディポケットも使い分けています。最近は Gemini で画像生成ができるようになったのが良いですね。
インタビュアー:様々なツールを積極的に使われているのですね。ちなみに、生徒様への生成AI研修は、どれくらいの時間をかけて行われたのでしょうか?
津森先生:45分1コマを2コマ、計90分です。別の通常授業をこの研修に割り当てて時間を確保しました。
研修に対する生徒の反応
活発なコミュニケーションの発生
インタビュアー:研修中の生徒様の反応はいかがでしたか?
津森先生:生成AIを触ったことのある生徒が、田中先生(研修講師)のおっしゃることを理解し自ら積極的に操作して、まだ理解が追いついていない周囲の生徒に声をかける場面がありました。普段あまり会話しない生徒の間でも自然と会話が生まれていて、これは想像以上の動きで驚きでした。
インタビュアー:生徒様は意欲的に研修に参加されていたのですね。
津森先生:はい。我々教職員が想定していたよりもずっと前向きで、退屈そうな様子は見られませんでした。個人差はあるものの、それでも全体としては他の授業より生き生きした雰囲気が感じられました。教員が促さなくても、「ここは◯◯じゃない?」「◯◯だと思うよ」といったやり取りが発生していました。
岡藤先生:本当にアクティブで、居眠りしているような生徒も見受けられませんでした。
インタビュアー:研修の中で特に印象に残った点はありますか?
津森先生:自発的に教え合う場面が多かったため、普段は発言しないタイプの生徒がPC操作で脚光を浴びていた点です。日常生活の中では比較的控えめな生徒が、生き生きとしている様子は見ていて興味深かったですね。
インタビュアー:研修を受けてみた後の生徒様の感想はいかがでしたか?
津森先生:「楽しかった」という声が多かったです。ここからすぐ日常使いのフェーズに入るのは難しいとは思いますが、生成AIに触れる入口としては非常に有意義な時間でした。生成AIに対するアレルギーや抵抗感のようなものがこれまであったとしても、研修を通して拭えたのではないかと考えています。先ほどお話しした通り、生成AIや ChatGPT という言葉は知っていても、よく分からないから触らないという状態の生徒がほとんどでした。研修で触れたことで、注意点を含めて使い方を学ぶことができたと思います。
教職員の反応について
意識向上と教育現場での実践的活用を目指して
インタビュアー:生徒様向けに生成AI研修を実施した後、教職員様からはどのような反応がありましたか?
岡藤先生:残念ながら、教員の意識はまだ低いと思いました。生徒向けの研修は見学自由にしましたが、特定の教員しか来ませんでした。授業で活用しようという意識には至っていません。この点は今年(2025年)の課題です。昨年(2024年)は教員が使ってみる段階で終わったので、今年(2025年)は生徒に使わせることも含めて変わらないといけませんね。先ほど津森が話したように、生成AIとの対話によって新しいコミュニケーションが生徒間でも生まれると分かったのは面白い発見でした。
津森先生:その点が、今回の研修で私個人が得た一番大きな気づきです。
インタビュアー:研修を受けた生徒様には、以降自由に生成AIを使わせているのでしょうか?
津森先生:正直なところ、個々の授業での活用具合はまだ把握しきれていないのですが、対象となった生徒が、この度高校3年生に進級したので、受験準備の中で生成AIを上手く活用していけたら良いなと考えています。
生成AI活用の展望
ガイドラインを策定し悪用を防ぐ
インタビュアー:昨年(2024年)研修を行い、現場での本格的な生成AIの活用は今年(2025年)からだと思いますが、具体的にどのような場面で使うことを想定していますか?
津森先生:あくまで構想段階ですが、志望理由書をブラッシュアップするための壁打ち相手、文字での面接練習、 社会科の問題演習などで生成AIを使っていけたらと考えています。
インタビュアー:本格的に活用していくうえで、生成AIに対して抱いている懸念点はどのようなものがありますか?
岡藤先生:生成AIはその性質上、すぐに答えを出してきます。例えば小論文を書く際、最初から「このテーマで500字の小論文を書いてください」と指示すると、指示通りに生成されてしまうのです。こうなると生徒が自分の力で解こうとしなくなる恐れがあるので、これは懸念点の1つですね。そういった使い方をさせないためにも、前述のガイドラインを独自に作成しました。具体的には、「生成物をそのまま提出しない」「個人情報を入力しない」といった内容をガイドラインに盛り込みました。我々教職員としては、生成AIと対話しながら自分の考えを深めたり、添削の際に活用したりするような使い方を推奨しています。生成AIの精度はどんどん高くなっているので、悪知恵を働かせて悪用するようなケースの発生もないとは言い切れません。生成AIの活用スキルは身につけておくべきものだとは思いますが、便利さの裏に潜むリスクも十分念頭に置いておきたいです。
効率化と新たな選択肢の広がり
インタビュアー:教職員様や生徒様を含め、学校全体として生成AIの導入によってどのような効果を期待していますか?
津森先生:まず教職員で言うと、生成AIを上手く使えば業務効率化に繋げられると思うので、働き方改革の面では非常に効果的だと思います。業務効率化が叶えられれば、子どもたちに使える時間が増えるので、あらゆる面でプラスに働くことが多いはずです。
岡藤先生:生徒に関しては、学習効率化や自己マネジメントに生成AIを活用できます。生成AIとの対話が言わば面談のようにもなるので、生成AIが持っている可能性は非常に意義があるものです。また、勉強が苦手だったとしても、生成AIの活用により別の強みを見つけて勝負できるようになるかもしれません。
津森先生:勉強が得意な生徒や部活動に力を入れている生徒がいるように、生成AIで成果を出そうと頑張っていく生徒がいても良いと思うのです。これからの時代、生成AIの活用スキルが1つの武器になり得ると考えています。
インタビュアー:今回のサポート全体を通して、当初期待されていた効果は感じていただけましたか?
津森先生:生徒向けの研修に関しては、先ほどお話した通り、「まずは触ってみよう」という入口の段階として想定以上の手応えを感じることができました。ただ、現時点ではまだ生成AI活用の習慣化には至っていないので、教職員からの声かけが足りていないのかもしれないと感じています。
インタビュアー:岡藤先生・吉武様はいかがでしょうか?
吉武様:私は学校を対外的にアピールする面を重視しており、その点で今回の取り組みを活用したいと考えています。そのため、生成AI活用の詳細は先生方にお任せしています。
岡藤先生:昨年(2024年)1年を通してサポートを受けてみて、入口としては大成功したなと思ってます。ミカサ商事さんを選んで本当によかったです。今後は入口のその次のフェーズに入っていかなければいけないので、教職員も生徒もまだまだ多くの課題を抱えています。教職員の働き方改革、生徒の学習効果、さらには探究心や非認知能力の向上を目指し、生成AIの進化に合わせてブラッシュアップしていきたいです。プロンプトをそこまで詳細に書かなくても回答を的確に返してくれるなど、生成AIは目まぐるしいスピードで精度が上がっているので、新しい情報を随時アップデートしながら生徒に力を付けさせていけたらと考えています。
まとめ
将来、生成AIの存在がスタンダードとなり得る社会に出ていく生徒と、働き方改革という大きな課題を抱えた教職員様のため、DXハイスクール採択校として生成AIの活用を推し進めている学校法人野田学園様。教職員向けの研修からスタートし、その後生徒向けの研修も試験的に実施しています。生成AI導入を検討されている方にとって、実際に研修を受けた教職員や生徒の反応、研修がもたらした効果などは、非常に参考になる内容だったかと思います。このたびは貴重なご意見や情報を共有していただき、誠にありがとうございました。
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